第一話 |
一日の訓練を終え、岡田は宿舎へと向かっていた。 この一月、アイツからの連絡は途絶えている。当然だな。俺はアイツの信頼を裏切ってしまったんだからな…。 それも、最低の形で… ぼんやりと歩きながら、岡田は中山のことを考えていた。 俺のほうから連絡して謝るべきなのだろうが…あんな事をしておきながら、いまさら何を言えばいいんだ ? 「隊長ーっ ! 」 岡田のそんな憂鬱を、背後からの明るい声が破った。 振り向くと、畑山が走ってくる。 畑山は岡田の班に配属されたばかりのピカピカの新入隊員だ。 しっかりとした体格に似合わない…やや垂れた目が、いつも笑っているようで、そんな愛嬌のある顔が誰からも好かれる原因なのかもしれない。 実際…畑山は、すぐに岡田の班に馴染み他の先輩隊員たちからも可愛がられている。 男ばかりのむさくるしい生活の中では、うってつけのマスコットなのかもしれない。 口下手で、軽口を叩いたりするのが苦手な岡田ですら、畑山の前では自然に冗談が口をついて出てくる。 とはいえ、岡田は隊長という立場上、一緒になってふざけるどころか、むしろそれをたしなめる役割に回らなければならない。 口を開けば厳しいことばかり言う、鬱陶しい隊長のはずが、畑山はなぜだか岡田になついてくれている。 そんな畑山の事を、いつまにか岡田も、特別な部下と思うようになっていた。 「ああ、お前か」 そう言うと、畑山は肩で息をしながら、少しばかり怒ってみせた。 「お前か、はないでしょう隊長。どうしたんすか?ぼんやりして…」 「べつに…そういうわけじゃないがな…」 「わかった ! 彼女の事でも考えてたんでしょう」 「馬鹿。それはお前だろう?」 「あ、ひどいなぁー。俺は訓練中に彼女の事なんか考えませんよ」 「ほう。お前、一人前に彼女がいるのか」 「ええ…ま、まあ…一応は…。でも訓練中は、ちゃんと真面目に訓練に取り組んでますよ ! 」 「そうか。だったら、今日の登はん訓練は何だったんだ?」 「え?…あ……」 「お前は腕の力にばかり頼りすぎるんだ。だから、もっと腹と足の力をだな」 「はいっ ! 了解です!!すみません ! というワケで、明日もよろしくお願いしまーすっ ! 」 都合の悪い話になったせいか、畑山は一目散に逃げていく。 「しようのないヤツだな…」 その後姿を見送りながら、岡田は頬が緩むのを感じていた。 [続きを読む] [小説TOP] |