プロローグ

ずいぶん長い間、岡田先輩と会ってないな…。
中山は、携帯の着信履歴を見ながら、ふっと溜息をついた。
兄のいない中山にとって、岡田は頼れる兄貴であり、さらには数少ないゲイの友人でもあった。
これまでは、最低でも月に一度は、二丁目のゲイバー『カーサー』で会い、仕事の話や、ノンケの友人には出来ないような恋愛の相談を持ちかけたりしていたものだ。なのに…。
…やっぱり先輩、気にしてるよな、あの事。
中山は、一ヶ月ほど前、初めて岡田の職場であるレスキュー隊がいる消防署に遊びに行ったときの事を思い出した。
煤だらけになって現場から帰ってきた興奮状態の岡田に遭遇し…
まだ隊員達の汗の香りの残るロッカールームで力づくで犯されてしまったこと…。
それは中山にとって、肉体的にはもちろん、精神的にもかなりショッキングな出来事だった。
でも、中山は岡田を責める気にはなれなかった。
あの時の先輩は、死と隣り合わせの現場から戻ったばかりで現実とのギャップで錯乱していたから、あんな事をしたんだ、と自分に言い聞かせていた。
中山は中学の頃に、ボーイスカウトの隊長として知り合い、それ以来ずっと兄のように慕っていた岡田を、こんな形で失いたくはなかったのだ。
あの時…

痛みと恐怖と同時に、なぜだか不思議な興奮を感じてしまっていた。
今でも…夜、ベッドに入り目を閉じると思い出される。
あの時の岡田の獣のような荒々しい息遣いが…
むっとするような汗の匂いが…
中山の記憶の中に生々しく蘇り、激しく興奮してしまうのだ。
現に今も、そんな事を考えているうちに、中山の股間は徐々に力を持ち始めていた。
「黙って、じっとしてろ ! 」
…あの時の岡田の声が聞こえるような気がする。
そして、荒い息を吐きながら、岡田先輩が噛み付くようにむしゃぶりついた首筋が熱く疼く。
中山は、堪らなくなり、パジャマのズボンを引きずりおろした。
そして、あの時と同じようにうつ伏せになり、強い力で自分の肉棒を握り締める。
さらに、いつものオナニーとは比べ物にならない激しさで、それをしごきたてた。
あの時の先輩ならこうしただろう、と思いながら…。
「つ…、くうぅ…っ ! 」
握る力のあまりの強さに、快感とともに痛みが襲ってきたが、先輩に攻められているのだと思うと、その痛みすら快感に変わっていく。
中山は、自分を痛めつけるような激しさでペニスを攻め立てながら、背後に岡田の喘ぎを聞いた。岡田の激しい息遣いを、首筋に感じた。
ずんずんと情け容赦なく攻め立てられたあの時の痛みも、想像の中では甘美なものになる。
「あうっ…、くっ…せ、先輩…! お、岡田、先輩…っ ! は、はぁっ… ! 」
「イクぞ ! ぶっ放すぞっ ! ぐはああぁぁぁーーっっ ! 」
岡田先輩の絶叫のような声を想像しながら、中山は果てた。
「はぁ、はぁっ…はぁっ…」
現実に戻り、後始末をしながら中山は、自分の気持ちがどんどん混乱していくのを感じていた。
あれから…、こんな風に岡田先輩に犯されている様子を思い出しながらオナニーをした事は、一度や二度ではなかった。
だけど…。
俺には、達也がいる。金にルーズで、見栄っ張りで、嘘つきだけど…それでも別れられない達也が…。
達也の事を愛しているのかと言われれば、正直よくわからない。
何度も別れ、よりを戻し、という事を繰り返しながら、惰性でつきあっているというのが本当のところだ。
かと言って、岡田先輩の事が好きなのかと言われれば…正直なところ、それもよくわからない。
あまりにも、兄弟のような付き合いが長すぎて、恋愛の対象として見るには近すぎる存在になってしまっているのかもしれない。
どうしよう…連絡してみようか…。
中山は、携帯に登録されている岡田のナンバーに指を乗せ、力を入れかけた。
だけど…俺は普通に先輩と話せるだろうか ?
もし… “何の用だ”と冷たく言われたらどうしよう?
それでも、以前と変わらぬ態度で話すことが出来るだろうか?
余計に気まずくなるんだったら、電話なんてしないほうが良いのではないだろうか… ?
「……まだ、ダメだ…」
中山は溜息をつき、携帯をパタンと閉じた。

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